おたんこメモリー

おたんこなすな人生だ

三秋縋の『君の話』ネタバレレビュー

今年の初め頃に読んだんだけど、割と感動してその時ちゃんとレビュー書いてたからここに晒し上げとこうかなと言う魂胆。以下レビュー

 

 

 

これは読み終えた10分後に書いた感想です。

俺がまず一番悲しいと思った点
俺は、夏凪灯花じゃなく、松梛灯花に幸せになって欲しかった。でも、結果として、新型ADは松梛灯花の人生を悲しいものに終わらせて、夏凪灯花の人生も悲劇とした。でも、今これを書いていて思った。灯花は、もしかしたら幸せだったのかもしれない。嵐の日、千尋から電話がかかって来て急いで自宅に戻ったあの日、自分の名前を必死に呼ぶ千尋を見て胸がいっぱいで泣いてしまったあの日。それからの短くも幸せな二人の日々。記憶を失い、義憶も薄れ、そんな中千尋の話を聞き、最後の最後まで寄り添っていた時も、幸せだったのかもしれない。灯花は、作中に現れた《ボーイミーツガール》を作るきっかけとなった老夫婦と違い、お互いの鍵をお互いの錠前に差し込み、開けたんだと思った。

きっと灯花は幸せだったんだ、悲しくなんて決してなかった。

じゃあ千尋はどうだろう。
千尋は10年経ってなお、灯花の影を忘れられずにいる。忘れないでいる。でも、義憶技師となり、灯花の生み出した《ボーイミーツガール》は勿論、灯花と千尋が生み出したとさえ言える《ヒロイン》を生み出している。俺は千尋のそんな生き様が正しい正しくない以上に愛おしいと思った。ああ、人の愛はこうなんだと思った。美しいと思った。芸術的だと思った。

感想を書きながら噛み砕いていくことで色々気づきがあったけど、松梛灯花はきっと幸せであったし、夏凪灯花もきっと幸せだったんだ。そして千尋はそれを、彼女を忘れないでいる。ばかだなあと笑う彼女を感じて、感じていたことを、触れていたことを、幸福に思うだろう。

よかった、この物語は綺麗に大団円じゃないけれど、幸せな物語だった。孤独な二人が、一人じゃなくなる物語だった。

あとは余韻に浸るとする。

追伸
この読後、脳内整理をして、咀嚼ができたら無心でホワイトベリーの『夏祭り』を聞いてほしい。